第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
「わ、わわっ」
更に一滴、二滴。
落ちてくる雨水にすみは慌てて頭に手を翳した。
「大変っもう此処も駄目ねっ」
「すみ、ほら竹笠っ」
ちゃぽん、ぽちょんと落ちてくる。
終わりのない粒の重い雨水に、三人が慌てる。
咄嗟に蛍から借りていた竹笠を、きよがすみの頭上に被せた。
小さなすみの体なら、竹笠はすっぽりと頭上を覆う。
「でもそれじゃきよが…っ」
「大丈夫っ。これくらいの雨」
明るく笑うきよは、先程とは違い雨水に驚きは見せない。
一度慣れてしまえば多少の雨漏りなど容易に耐えられる。
そう笑うきよの体に、重い雫が一滴。二滴。三滴。
「でもあまり長居はできないわね。近くの木陰に移るわよ。それなら冨岡様も私達を見失わないと思うから」
「はい、アオイさん」
「ならきよも、ほら一緒に」
「ううん。気にしないで、走ればすぐだから」
遊んでいたおはじきを片付け、濡れないようにとスカートの端を握る。
ばたばたと目の前で身支度をする三人の姿を、蛍は一人ぼうっと見ていた。
──ピチャン
──ポチャン
耳に届く、重い雨水。
一滴、一滴と落ちていたそれが連なり、更に重みを増す。
──ピ チャン
──ポチャ ン
不規則に。
連なって。
束となり。
形を、成す。
「──っ」
は、と。蛍の五感が震えた。
「じゃあ走るわよ。蛍、ついて来──」
先頭に立ったアオイが振り返る。
蛍へと呼びかけようとした視界の隅が、濡れた。
──バチ ン!!
瞬間、空気が破裂するように。
鋭い音が鼓膜を叩いた。