第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
義勇のように五感を鋭く変化できる者でないと、気付けない程の些細な変化だ。
些細だが、異様なもの。
水の深さや落ちる物質の量が変われば、変化もあるだろう。
だが一定の浅い水溜りであるそこに、しとしとと一定の感覚で降り続けている雨が、変化を生むことはない。
(はずだ)
今一度己に言い聞かせて、水溜りの傍に立つ。
自然と利き腕は日輪刀の柄を握り、いつでも抜刀できる状態で、一歩。水溜りの中へと踏み出した。
──ピチャンッ
「きゃっ」
無防備な首筋に落ちる小さな雫。
突然の冷たさに、頸を竦めたきよが声を上げる。
「どうしたの?」
「雨が、落ちてきて」
「酷くなってきたのかしら…」
おはじきで遊んでいた手を止めて、アオイが空を仰ぐ。
雨音は変わらないように聞こえたが、とうとう葉だけでは雨を防ぎきれなくなってしまったのだろうか。
「困ったわね…冨岡様が戻るまでは移動できないし…」
「大丈夫です、これくらい。ちょっと吃驚しちゃっただけです」
「そう? 寒くなってきたら遠慮なく言うのよ。なんならこの隊服でも」
「ダメですっそれはアオイさんが着ていて下さい」
「そうですよ、アオイさんは濡れてしまっているんですからっ」
「そ、そう? ごめんね」
「謝ることないですっ」
「仕方ないですっ」
はきはきと頸を横に振り主張するすみときよに、アオイは眉尻を下げるも、隊服を脱ごうとしていた手を止めた。
ふと視界の隅で何かが動く。
顔を向ければ、立ち上がった蛍がぽすりときよの頭に竹笠を被せる。
「蛍さん…」
「あ、ありがとうございますっ」
言葉は通じているのか、いないのか。
だが確実に周りの状況は蛍の目には理解できている。
些細なその行動にも、アオイ達の表情は和らいだ。
──ポチャンッ
「ひゃっ」
そこへ一滴。
今度はすみの耳に落ちて来た雨水が音を立て、少女の肩が跳ねる。