第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
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「行っちゃったね、冨岡さま…」
「うん…なほ、見つかるといいね」
「冨岡様がいればきっと大丈夫よ。ほら、二人共こっちに寄って」
木々の間へと消える義勇の背中を、じっと見送るきよとすみ。
誰よりもなほと仲が良い二人なのだ、心配もするだろう。
そんな二人を励ますように、ぱんと手を打ち明るい声出すアオイが誘う。
「私達が座って待っていないと、蛍も棒立ちを続けてしまうから」
「あっ蛍さん」
「蛍さんも、こっちに座りましょうねっ」
アオイ達の騒ぎに、腰を上げて少し離れた場所で見守っていた蛍は、今も同じ場所に立ったままだ。
すみに手を引かれ、ようやく大人しく再び木の根の傍に腰を下ろす。
左右を少女達に挟まれた蛍は、膝を抱いてちょこんと体操座り。
その姿がなんとも微笑ましくて、思わずくすりとアオイも笑った。
「折角だから、待っている間にさっき買ったおはじきでもする?」
「いいですね! おはじき遊びっ」
「したいですっ」
しとしとと降り続ける雨は大人しくとも、体温を奪う。
動き回ることはできないが、じっとただ待つよりは何かに思考を回していた方が良いだろう。
買ったばかりのおはじきが入った袋を指差すアオイに、すみときよも返事一つで頷いたのだった。
──カサ、
芝のように生い茂る林道を行く。
辺りを探りながら歩き続ける義勇は、癖の強い髪に濡れる水雫を指で払った。
視界は悪いが、夜に任務を遂行する鬼殺隊としてはなんてことはない。
まだ木々の間の先も、茂みの陰の中も見える。
(ここにもいない)
ただ、その何処にもなほの姿は見つけられない。
幼い少女が雨宿りできそうな所を重点的に捜しているが、声も気配も感じ取れない。
雨の所為で痕跡も見つけられず、義勇は濡れた髪の下で眉を潜めた。
相手は鬼殺隊とは名ばかりの幼い少女だ。
そんな少女が、数十分の間にどうしてここまで痕跡を残さず身を隠せるのか。
(方角が間違っているのか?)
痕跡がないのなら次だと、すぐに切り替える。