第8章 むすんで ひらいて✔
間近で見ればよりわかる。
小芭内が連れている友の蛇の鏑丸(かぶらまる)のような、人とは相異なる瞳。
なのにそこには深い深い彩千代少女の心の幅が広がっているように思えてならない。
吸い込まれそうな、つい覗き込んでしまう不思議な瞳だ。
「ぇ…偉そう、だよね…ごめん」
ついじっと見ていれば、別の意味と捉えた彩千代少女の目が逸れる。
重ならなくなる視線に、しまった見過ぎたと後悔した。
俺の目は眼力が強過ぎると小芭内にも言われたことがあるからな…。
「いや、偉そうなどとは思ってない。だから顔を上げてくれ」
その目をもっと見ていたいと思う。
その目に、もっと映っていたいと思う。
いつもなら勢いで弁解するところを、なるべくゆっくりと言葉を刻む。
彩千代少女といると時折真剣に言葉を選んでいる自分がいる。
人の心を持った鬼など今まで関わったことがない。
だからこうも構えるのかと思っていたが、どうやら違うことに今気付いた。
俺は人であった頃の彩千代少女を知らない。
なのに今の彩千代少女と出会えたことに微塵も後悔はなかったからだ。
その人と相異なる目も、鬼であることに悩み葛藤する心も、それでも向き合おうとする姿勢も。
今の彩千代少女を成すものに愛おしさを感じるからだ。
「ありがとう。俺は気にかけずとも、彩千代少女に気にかけてもらえるなら嬉しいことはない」
「そんな大袈裟な…」
「大袈裟ではないぞ。俺は嬉しいから嬉しいと言っただけだ」
素直に思いを伝えれば、ようやくこちらを向いたかと思った目がまた逸れる。
だがその髪から覗く耳がほんのりと赤い様を知ると、不思議と気が騒いだ。
「杏寿郎って本当に真っ直ぐだよね…尊敬するくらい」
「そうか? 思ったことを口にしているだけだ!」
「それを真っ直ぐって言うんだよ」
「ならば宇髄や不死川も真っ直ぐな人間だな!」
「あー…うん。あれもあれで真っ直ぐだね。うん」
気が騒ぐ意味がいまいちわからず。
だがしかしこうして彩千代少女と他愛のない話をしていれば、すぐに気にならなくなった。
彼女とはこうして何度も言葉を交してきたが、二人で話す時間はなんとも心地良い。
穏やかな気分になれる時間だ。