第8章 むすんで ひらいて✔
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彩千代少女は、とても社交的な鬼だと思う。
…鬼という示し方は不適切だな…社交的な、女性だ。
無論、最初はそうではなかった。
出会い当初は己の感情を見せず、壁を作り、距離を置いていた。
鬼となってしまった経緯を知れば致し方ないことだと思う。
しかしそれでも他人を受け入れるだけの心の幅を持っている女性だった。
…社交的というには少し言葉が違うような気もする。
彩千代少女は、己の立場を受け入れると同時に、敵対するはずの他者を認められる者だ。
それがどんなに凄いことなのか彼女自身は気付いていない。
「──お父さん、が?」
「突然のことだった。炎柱にまでなった人だったが、ある日突然剣士をやめた」
「…理由は…」
「わからない。あんなにも熱心に俺や千寿郎の稽古をつけてくれていた、情熱ある人だったのに……強いて言うなら母の死が関わっていたのかもしれない」
俺の家族のことが知りたいと言ってくれた彩千代少女に、己の過去を語る。
こうして振り返れば明るく楽しかった時は俺が十歳程の頃まで。
その後の我が家は暗いものだった。
はっきりとしたことはわからない。
ただ父上の人となりが変わってしまったのは、母上を病気で失くした後だった。
「家族の死は、人にとって一番の心の負の感受だから…」
「そうか…確かに、そうだな」
父上にとって、最愛であった母上を亡くすことがどんなに辛く耐え切れないことだったのか。見る間に憔悴していった姿を見ていたから、よりわかる。
俺はその母上に強くあれと願いを受けたからこそ立ち止まることはなかったが。
あんな父上の姿を見てしまったからこそ、尚の事立ち止まれなかったのかもしれない。
「父の心も深い傷を負ったのだろうな…」
「…お父さんだけじゃないよ」
「む?」
「杏寿郎も、でしょ」
失くした右手を庇うように抱いたまま、彩千代少女の目が俺を見てくる。
いつもは上目になるその視線も隣に座っているとより近い。
「杏寿郎の話を聞いていると、お父さんや弟くんのことを気にしてばかりだけど…もっと自分のことも見ていいと思う。人の為に在るのも大事だけど…自分の為に在るのも、きっと必要なことだと思うから」