第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
「待って蛍っ」
蛍の後を追う。
声をかけても止まる素振りのない蛍の隣に並んで、空いた手をアオイは握りしめた。
「離れないようにね」
紫外線防止の為に手袋はしているが、そこから伝わる温もりは決して気温だけの所為ではない。
隠せない笑顔を向けるアオイに蛍の視線は向かなかったが、振り払うこともなかった。
そんな二人を見守るのは、義勇の他に三人の小さな影。
「アオイさんのあんな笑顔、久しぶり…」
「しっ」
「冨岡さまも、行きましょうっ」
こそこそと見守っていたすみ達も後を追う。
振り返り笑うきよの笑顔に催促されて、義勇も無言で踏み出した。
──ザァァァ
それも束の間。
町を出て林道まで来た時、分厚くなっていた曇天がとうとう身を切るように雨を降らせ始めた。
「うわぁ、すごい雨…」
「傘一つじゃ足りなかったですね」
「皆は大丈夫?」
「はい。でもアオイさんと冨岡さまが…」
「俺は問題ない」
念の為に傘は持参していたが、主に蛍の為の予備の傘だ。
一つだけでは三人娘を雨から庇うのが精いっぱいで、アオイと義勇は濡れ鼠になってしまった。
「っくしッ」
「着ていろ。ないよりは良いだろう」
「えっ? で、でも」
「風邪でも引かれたら胡蝶が怒る」
羽織の下の濡れていない隊服を、義勇の手がアオイの背に被せる。
季節は冬。一度雨に降られただけでも、体調を崩す可能性はある。
まともに呼吸を使えないアオイなら尚更だ。
「一先ず雨が止むまで此処で休息を取る。いいか」
「は、はい。それは…問題ありません。でも冨岡様が」
「呼吸で体温の管理はできる」
大きめの木の下に避難した一行は、急遽休息を強いられた。
竹笠を被っていた蛍も雨に濡れてはいない。心配すべきはアオイのみだと義勇は頸を横に振った。
まだ鬼殺隊本部までは道のりがある。
近くに町里もない中で雨に降られ続けるのは得策ではない。