第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
「蛍さん、見てくださいっ」
「わぁ、綺麗な紅葉柄!」
「蛍さんのその袴にも似合いそうですよねっ」
町へと着けば、一層三人娘の賑やかさが増した。
少女が惹かれそうな可愛らしい簪や髪飾りが並ぶ出店で、きゃいきゃいとはしゃぐ。
その中心には手を引いてきた蛍がいる。
「私は必要なものを揃えるから、すみ達は蛍を頼んだわよ。そこから離れないようにね!」
「「「はぁーい」」」
「冨岡様は、あの子達についていてあげて下さい」
「…一人で問題ないか」
「大丈夫です。いつもしていることですから」
アオイ一人に買い出しを任せるのも気が引けるが、これだけ賑やかな昼間の町中なら鬼に出くわす可能性も低い。
それよりも鬼でありながら真昼の外を出歩いている蛍こそ目を離す訳にはいかない。
そう遠回しに姿勢を正す義勇に、アオイは気にすることなく笑った。
しのぶが買い出しを命じた理由の一つに蛍のことは確かに入っているが、必要な医療用具があったのもまた事実。
(さっさと片付けて、ゆっくり帰ろう)
少しでも蛍の息抜きになるならと、アオイは足早に目的の店へと足を運んだ。
蛍の足取りに合わせてゆっくりと向かった行き道に比べ、町中での時間は瞬く間に過ぎた。
必要なものを買い揃え、途中で腹ごしらえと称して定食屋に入り、その後はきよ達に一つ、好きなものを土産として選ばせる。
買い出しは主にアオイの仕事で、なほ達が鬼殺隊本部を離れたことはほとんどない。
そんな彼女達にも束の間の休息を楽しんで欲しいと、思い至ったアオイの心遣いだ。
「皆、欲しいものは買えた?」
「はいっ」
「ありがとうございます、アオイさん!」
「すごく可愛いです、これっ」
色とりどりの折り紙や、可愛らしい巾着袋に詰められたおはじき。
普段は蝶屋敷の補助員として働いている彼女達だが、そうして喜ぶ様は年相応の少女そのものだ。
「それじゃあ暗くなる前に帰る…蛍?」
つられて笑顔を零しながら、町を出ようとしたアオイの手に触れる体温。
見れば、空気のように沈黙していた蛍が其処にいた。