第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
「すみません」
「何がだ」
「何って…その、水柱様にこんなお遣いみたいなこと」
「確かに胡蝶の命を受けたが、俺自身が必要だと思ったからここにいる。お前が気負う必要はない」
太陽が曇天にかかる空の下。
先を歩いていたアオイが、気まずそうに振り返る。
最後尾をついて歩いていた義勇は、何か悪いことがあるのかと心底疑問を覚えて応えた。
「俺に構う必要はない。それよりも彩千代を見ていてくれればいい」
その視線が向いたのは、なほ達、幼い少女三人に囲まれた蛍だ。
天候は先程より曇りに近くとも、またいつ晴れるかもわからない。
故に任務時にも身に付けていた袴と竹笠を被った蛍の手を、幼い少女達が引く。
「蛍さん、こっちです」
「具合は大丈夫ですか?」
「疲れたら言ってくださいねっ」
とぼとぼと大人しくついて歩く蛍とは裏腹に、囲む少女達の足取りはどこか弾んでいる。
それは蛍が長期任務に出る前のこと。
曇り空なら散歩もできると告げた蛍に、いつか共に外出しましょうと期待を口にしていたからだ。
思いもかけない形で願望が達成されて、幼い少女心は浮足立っていた。
しのぶの命により、医療道具の買い出しに出た一行。
蝶屋敷を離れ、鬼殺隊本部からも下りながら近くの町へと向かっていた。
「ああして、きよ達が傍についているなら大丈夫と思います。蛍が出たがるのは蝶屋敷だけでしたし。現に屋敷を出れば、そこから離れるようなことはしませんでした」
「…知っているのか」
「え?」
「彩千代が、外に出たがる理由が」
何故自分の身を危険に晒しながらも、陽の下に足を向けるのか。純粋な問いを義勇は投げかければ、アオイは少しだけ考えるように沈黙を作った。
「…多分、ですけど」