第8章 むすんで ひらいて✔
鬼に成ったことを後悔しない日はない。
だけど鬼に成ったからこそ…この人に会えたことは、私にとってきっと大きなことだと思う。
「初めて会った時から、変わったかもしれないけど…変わらないことも、あるよ」
「む! なんだ?」
ようやく俯いていた視線を上げる。
明るいいつもの表情の杏寿郎に笑いかけた。
「杏寿郎のこと、教えて欲しい」
初めて杏寿郎と檻の外を散歩した、あの秋の夜長から。その思いは変わっていない。
こんなにも力強く引っ張っていってくれる、大きな包容力を持つ杏寿郎。
彼が歩いてきた道は、どんなものなのか。
どうしたらそんな意志を持てるようになるのか。
知りたい。
「そうか。ならば何から話そう」
「前に怪談話で教えてくれた、千寿郎くんのこととか。杏寿郎の家族のこと、知りたいな」
「うむ! いいだろう!」
返事一つで頷いてくれる杏寿郎の声に耳を傾ける。
常人より大きな声で話す杏寿郎の声量は、この狭い檻の中では響く。
普通なら煩わしく感じるものなのに、少しも嫌な気はしなかった。
弟くんのこと。
父親のこと。
生きてきた道。
歩いてきた所。
一つ一つ、杏寿郎の軌跡を辿る。
その時間が凄く心地よくて。
ずっとこの時間が続けばいいのにな、なんて思う自分がいた。