第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
最初に見つけた時は、日中でありながら無事でいる蛍の姿に驚いた。
それを可能にしているのが奇妙に立ち昇る影であることも、傍に来て目視できた。
"影沼から現れた彩千代蛍が、陽光の下に佇んだ。"
その情報は無限列車任務の遂行内容と共に届いていたものだ。
それでも実際に目にすると、その異様さがありありと伝わってくる。
「…彩千代」
それでも今は、そのことを問うべき時ではない。
人形のように動かない蛍に、一度義勇が口を噤む。
「──煉獄の訃報を聞いた」
一瞬の沈黙の後。
告げられたその名に、ぴくりと蛍の爪先が揺れた。
「無限列車に乗車した全ての人間を守り、戦い抜いたそうだな」
「……」
「そこで上弦の鬼と接触したと」
「……」
「それ以前に上弦の弐とも接触し、煉獄と不死川とで打ち倒したと聞いた。本体ではなかったようだが」
「……」
「お前も見たんだろう。上弦と呼ばれる鬼を」
上弦の鬼。
その強さは無惨に続く実力だと聞く。
しかし今まで出くわせたのは精々下弦の鬼ばかりで、上弦と出会ったことは一度もない。
杏寿郎の長期任務先からの情報が、義勇にとっても初耳の接触だった。
そして上弦の参の鬼の手にかかり、炎柱が命を散らせたことも。
柱の命を奪う程の鬼だ。
例え蛍が戦いに身を投じたとしても、抵抗らしい抵抗さえできなかったかもしれない。
炭治郎達から得た情報の詳細を聞けば聞く程、上弦の鬼との接触情報が今までなかったのは、上弦に会った隊士達が全員命を落としていたからだろうと予想がついた。
そんな鬼と出会い、戦闘を交えた後(のち)、生還に至った。
それがどれだけの奇跡なのか。
今目の前にある蛍の命も、一歩間違えれば潰されていたかもしれない。
(…お前が守ったんだな。煉獄)
その脅威を防いだのは、他ならぬ杏寿郎だ。