第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし
羽根を折りたたみ、胸元の羽毛を膨らませる。
ぴたりと蛍の横顔に寄り添うように肩に身を沈めて、政宗は埋まった。
雨に降られた寒い日の夜。
岩柱である悲鳴嶼行冥の稽古山で、政宗が暖になると抱き込んだのは蛍の方だった。
しかし今は身を寄せる政宗に反応一つ返さない。
それでも政宗も沈黙を作ったまま、ただ静かに蛍に寄り添った。
この場から離れる気がないなら、自分も飛び立つ理由はない。
そう体現するように。
──ザ、
静寂しか残らない空気の中で、乾いた草履が瓦を擦る。
「此処にいたのか」
はっとして顔を上げた政宗の目に、一人の人間が映り込んだ。
感情の読めない顔で蛍を見下ろしている。
草履が瓦を擦る音がするまで、男が屋根に上がってきたことにも気付かなかった。
「彩千代」
淡々と起伏のない声で呼ぶは、水柱である冨岡義勇。
怪我や病気により蝶屋敷を訪れた訳ではないことは、その隊服姿から認識できた。
政宗には一瞥もくれず、ただ蛍だけを見下ろしている。
「神崎達が心配していた。部屋に戻れ」
呼びかけたところで、蛍は身動きをしない。
「胡蝶もだ。あいつは鬼には容赦がない」
同じ柱であるしのぶが、ただ蝶屋敷の屋根に潜んでいるだけの蛍を見つけ出せない訳がない。
しのぶの言い分からすると、蛍の勝手な行動は一度きりではなかったように感じる。
となるとこの脱走も、一度や二度ではないのだろう。
『捜すなら、高い視点からどうぞ。その方が見つけ易いと思います』
黙って蛍の捜索に向かおうとしていた義勇に、背を向けたまま助言したことが顕著な例だ。
しのぶのその助言に習い、屋根へ上がるとすぐにその姿は見つけ出すことができた。