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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし



「腹の傷かなり深かったんだよね? それでどっか行っちゃったのアイツ!? 馬鹿なの!?」


 炭治郎・伊之助・善逸の顔馴染み三人の中で、一見まともそうに見える炭治郎。
 だがしかし時として正常な判断が下せる者は善逸となる。


「ええ、本当に。どっか行っちゃったんですよ」

「だよねぇえええしのぶさんんん!?!!!」


 不意に背後から同調の声がかかる。
 深く大きく頷きながら振り返った善逸は、瞬く間に目玉が飛び出さんばかりの驚愕顔へと変えた。

 いつの間に其処にいたのか。
 足音も、気配一つ立てずに背後に立っていたのは屋敷の主・胡蝶しのぶだ。


「炭治郎君だけならまだしも、彩千代さんまで。一体全体、何処で油を売っているんでしょうねぇ」


 にこにこと浮かべている笑顔は見惚れそうな綺麗なものだが、ぴきぴきと額には青筋が浮かんでいる。
 きよの言う通りの姿に相俟って、善逸の足と背を竦ませたのは小柄な彼女から聴こえる心音だった。
 表立って見せている表情とは似ても似つかない、怒りを隠していない音。
 無断で消えた炭治郎にも向けているだろうが、それ以上に憤慨しているのは蛍に対してだった。
 「彩千代さん」と呼ぶ時の声程、心音が赤裸々に語ってくる。


「えっ蛍さんいなくなったんですかっ? 世話係のなほは…!」

「なほは悪くありません。勝手に姿を消した彼女が悪いんです」


 慌てるきよにも貼り付けた笑顔を向けて、反論など有無言わさず抑え込む。

 蛍関連となると、しのぶの態度は時に顕著だ。
 そのことを少なからず知っているきよは、おろおろと静かに慌てるばかりで何も言えない。




「勝手に姿を消したとは、どういうことだ」




 そんな誰も口を挟めない状況で、淡々と声色を変えずに突っ込む声が一つ。


「と、冨岡さま!」


 しのぶの更に背後を取り、無表情に立つ男。
 水柱の冨岡義勇である。

 ぺこりと頭を下げて反応を示したのはきよだけで、突然の柱の登場に善逸は肩を強張らせた。
 炭治郎の話にもよく出てくる義勇のことは、他の柱よりも割と知っている。
 知っているが、柱であることには変わりない。

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