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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第35章 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし



「あ…そうだ。炭治郎」


 同時に理由も思い出す。
 わざわざ台所からこっそり饅頭をくすねて、更には一口も食べずに此処まで運んだのには理由がある。
 炭治郎に届ける為だ。

 大泣きしていた伊之助は、まだ若干元気は見られない時もあるがすぐに鍛錬だ、任務だと声を荒げていた。
 幸いにも軽傷でもあった為、誰よりも早く蝶屋敷から退院することができた。
 それでも今は鍛錬に身を置き、任務に出るのは時間を置くようにとしのぶに指示を貰っている。

 対して炭治郎は、三人の中で誰よりも重症だった。
 精神的なショックも大きく、未だ安静にするようにと寝たきりの状態である。


「よしッ」


 その為、炭治郎の病室まで饅頭を届けに来たのだ。
 美味しいものでも食べて腹を膨らませれば、僅かでも空気は和らぐかもしれない。

 パンッと頬を片手で叩いて気合を入れる。
 落ちてしまった表情を元に戻すと、善逸は笑顔でドアに手をかけた。


「炭治郎! 饅頭貰って来たから食」

「炭治郎さんがいませぇん!!」

「おう"ゼふゥッ!?!!」


 がらりと引き戸を開けて笑顔で饅頭を掲げる。
 善逸にとって100点満点の登場は、一秒と持たずに破壊された。


「あーーッ!? 善逸さんごめんなさぁい!!」


 真っ青な顔で飛び出してきた少女、きよによって。
 背の低いきよの頭部が善逸の顔を下から突き上げる形になり、強烈な一打を浴びせたのだ。


「いヤ。全然。大ジョ夫。どシたの?」

「焦点が大丈夫じゃないです!!」


 鼻血と眩暈を起こさせる程の一打である。


「本当にごめんなさい! 炭治郎さんどこにもいなくって…!」

「ハハハ」

「傷が治ってないのに鍛錬なさってて! しのぶさまもピキピキなさってて…!」

「大丈夫大丈夫」

「安静にって言われてるのに…!」

「大じょ…うぶじゃないねそれ!?」


 最初こそくわんくわんと頭を回していた善逸だったが、きよに差し出されたハンカチで血を止めていたところ、聞き捨てならない台詞に思わず突っ込みを入れてしまった。

 此処は蝶屋敷。
 主となるしのぶを怒らせることは、屋敷生活に支障をきたすというものだ。

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