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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第34章 無題



 そうだ。自分は兄だ。
 妹を守らなければ。
 太陽の下に出してしまえば、鬼の禰豆子はすぐにでも死んでしまう。


(じゃあ、蛍は?)


 当然の危機を予想し、同時に矛盾が生じる。
 同じに鬼である蛍の血鬼術は、何故太陽の下でも存在していられるのか。


(本体じゃないからか? 鬼の術なら太陽の脅威も克服できるとか…)


 禰豆子の血鬼術は血を爆ぜる技だ。
 蛍の術とは違い、爆発を用いる技はそもそも体などを覆って守る術も何もない。
 鬼殺隊の呼吸技とは違い、千差万別な鬼の術。
 ならば蛍のような技もあるのかもしれないと、息を呑んで目の前の影沼を見つめた。


(煉獄さん…あんなに血を流していた…腹に鬼の腕まで貫通させて……蛍だって、顔を出したあの一瞬、火が上がるのが見えた…もしかしたら太陽光にやられたのかもしれない…)


 杏寿郎の安否も、蛍の現状も何もわからない。

 木箱を抱いた腕に力でも入っていたのか。カリカリと内側から小さく引っ掻くような音に、はっと顔を上げる。


「禰豆子?」


 間違いなく禰豆子の意思表示だ。
 耳を澄ませば、小さく呻るような「ぅぅ」という声が聞こえた。
 何度もそれを繰り返す様子は、今まで見てきた禰豆子とはどことなく違う。

 不安を煽るような声に、カリカリと休まずに木箱の内側を引っ掻き続ける音。


「ぉ…落ち着け、禰豆子。大丈夫だ…っ」


 何度も木箱を背負って太陽の下を歩んできた。
 故に妹が陽光を怖がり呻っている訳ではないことはすぐにわかった。
 禰豆子が呻っているのは、自分自身の為ではない。

 あの時と同じだ。
 初めて鬼殺隊本部に踏み入れ、蝶屋敷へと赴いた時と。


「大丈夫だから…っ」


 全身火傷を負った、見ず知らずの鬼である蛍の治療室に何度も足を運んでいた。
 不安を垣間見せていた、あの時の禰豆子と。

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