第4章 柱《壱》
彼の色は猩々緋色(しょうじょうひいろ)だ。
赤より尚赤い、だけど深く燃えるような色。
額を晒して反り返る金色の癖の強い長髪は、毛先に流れるにつれ赤みも強く、そこから尚猩々緋色が発光して伝わってくる。
綺麗より強さが勝る。
近くにいたら身を焦がされそうな気になる色だ。
更には太く凛々しい黒眉に、何をも射抜くような朱色に金の輪をかけたような鋭い眼孔を持つ。
一度見たら忘れない風貌だ。
「時に鬼の少女よ。君は鬼化して日も浅い頃に冨岡に捕獲されたらしいが、あれから飢餓状態にはなっていないのか?」
「ふぐ、ふごうぐ」
「うむ! 何を言っているのかさっぱりだな!」
じゃあこの口枷外して下さい。
やっぱり会話の妨げになっているじゃないですか。
そう主張する意味で口枷を指差してみるものの「それは外せん!」ときっぱり返されてしまった。
いやだから、じゃあどうするのこれ。
手振り身振りで会話しろと? 無理無理。
「む? 何処へ行く?」
別に何処へも行きませんよ。
ひらひらと適当に片手を振って、諦めと共に彼から離れた。
会話ができないなら折角の外出もすぐ終わってしまうかもしれない。
その前にと、開けた草の上を踏み歩く。
近くて大きな満月は、今の私にはまるで太陽のようだ。
もう浴びることのできないそれの変わりに、静かに目を閉じて月光を感じる。
柔らかく踏む草の感触も、リーリーと静かに合唱する虫達の歌声も、ほんのりと肌を掠めていく微風も。
どれもが忘れていた情景のようで、どれもが懐かしくて安堵する。
口枷が邪魔だったけど、足を止めてほうと息をついた。
此処は澄んだ空気をしている。
「君は変わった鬼だな」
「?」
視線を感じて目を開ければ、隣に彼が立っていた。
見開いたような眼孔の強い視線が、真っ直ぐに私へと向いている。