第34章 無題
考えろ。選べ。
枷にしては駄目だ。
呪いにしてはいけない。
「…っ」
蛍の未来を潰すな。
彼女が一人になっても歩いていけるように。
未来を作っていけるように。
「ッ」
その先の未来で、彼女が笑えるように──
( 誰 と ? )
未来も。将来も。
歩む道も。辿り着く先も。
全ては蛍と共に在りたいと願ったが故だ。
その手を握っていたい。
その声を聴いていたい。
自分とは交わることのない、彼女だから見ることができる世界を共に見ていたい。
そう願ったから。
(その、先に)
もう自分はいないのに。
誰が、望んで死など選ぼうか
父はまだ床に伏せたままだ
千寿郎もまだまだ幼いままだ
自分が消えたらどうなる
あの家はどうなる
二人の行く末は
何よりもこの腕の中で震えている彼女は
父よりも千寿郎よりも遥かに長い時を生きる彼女は
この先、誰と歩み進める
この先、誰の名を呼ぶ
この先、誰と笑顔を交わす
誰と
(…いや、だ)
誇り高くあるからなんだ
人々を守れたからなんだ
後の柱となり得る少年達を導けた
亡き母に幻影だとしても認めてもらえた
誰一人死なせなかった
彼らの未来を守ることができた
それでもう思い残すことはない──などと
言えるはずがない