第34章 無題
その蛍が縋るように口にしたのは、信じてはいないはずの存在だった。
「お願い…っおねが…です…っ…れて、いかな…で…」
無い手で掴むように腕を回し、杏寿郎の胸に縋る。
「杏…っ…ばわ、ないで…っ」
嗚咽混じりの言葉は途切れ途切れで上手くは聞き取れない。
「おね、がぃ…ッ」
それでも突き刺ささった。
かみさま 神さま 仏さま
お願いです
このひとを連れていかないで
奪わないで 攫わないで
大切なひとなの
譲れないひとなの
私の何をあげてもいい
ぜんぶと引き換えてもいい
だからお願い
一生のお願いです
お願いだから
この ひと を
「ッ死な…っせなぃ、で」