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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第8章 むすんで ひらいて✔



「……」


 見えない目の前の杏寿郎から伝わる沈黙。
 いつもは強い程の存在感を放ってくるのに、今は気にならない。

 杏寿郎はどんな顔をしているんだろう。
 鬼の癖に弱音を吐いて…訓練の時みたいに、踏ん張れって喝でも入れられるかな…。

 そう思っていたから驚いた。


 ふわりと、頭に触れた優しい感触に。


「俺は人であった時の彩千代少女のことを知らない。だから君の鬼化の変化に戸惑う葛藤を、理解してやることができない」


 撫でるでも叩くでもない。
 静かに、でも確かにそこにある掌の温もり。


「それでも鬼である彩千代少女しか知らないからこそ言える。君のその揺れる心は、人であるからこそだ。そんな君の心を俺は愛おしいと思う」


 お館様にも同じようなことを言われた。
 なのに何故か全く違う言葉のようにも聞こえた。


「悩め、少女よ。道に躓き、彷徨うこともある。だからこそ我らがいるのだ」


 我ら、って?

 恐る恐る掌を下げれば、柔らかな光に照らされる杏寿郎の顔が見えた。
 目が合えば、いつもは見開いているような眼光強い目が細まる。


「彩千代蛍。君は甘露寺に続く俺の二人目の継子だ。ならば師である俺が、何があっても守り抜こう。迷うのならば先を導こう」


 凛とした声。
 慈悲ある中に強さを感じる。
 杏寿郎の声はいつもすとんと私の中に落ちてきて、不思議な安堵感をくれるんだ。


「…私、は…鬼殺隊じゃ、ないよ…」


 嬉しかった。
 言い様のない感情で胸が詰まった。
 なのに、そんなことしか言えない私に。


「それが幸か不幸か、隊士以外の者を継子にしてはならない法はなくてだな! 問題無い!」


 虚しさを吹き飛ばすくらいの言葉と笑顔を向けてくる。
 本当に太陽のような人だ。

 杏寿郎が問題無いと言えば、本当に問題じゃなくなる感じがして。
 実質解決していないのに、何故か不安が削がれていくんだ。


「じゃあ師範って呼ばなきゃいけないかな…」

「む! そうだな…いや! そこは変わらず杏寿郎でいい。今更師など照れ臭い!」


 まるで照れ臭そうじゃない元気な笑顔で返される。
 その陽だまりみたいな空気に触れていると、自然とこちらまで顔が緩む。

 …暖かい。

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