第8章 むすんで ひらいて✔
鬼となって、目覚める度に感じるようになったことがある
ほとんど毎日のように
意識を起こして始めじるのは奇妙な空腹感
そして自分の体を見下ろして、ないはずのものに気付く
獣のように鋭く尖った爪や牙
瞳孔が縦に裂けた瞳もそう
そういうものを見る度に、触れる度に
沈む心と共に悟るんだ
ああ
この悪夢のような身の上は、夢ではないんだ
と
「…?」
朧気な意識がゆっくりと浮上する。
焦点の合わない、ぼやけた世界。
それが何処なのか、なんなのか、理解する前に目の前の影が動いた。
「起きたか」
声が、する。
この声を私は知っている。
薄く硬い枕の上じゃなく、硬いけど柔らかな温かい何かに頭を包まれて。
ぼんやりと見上げたままの影が、ブレを無くして徐々に明確さを増してくる。
「気分はどうだ?」
この声は。
この輪郭は。
この…色は。
「…きょ、じゅろ…?」
金に近い眩しい髪色。
毛先にいくにつれて、鮮やかな紅に染まっている。
凛々しい眉と眼差しの強い瞳を持った男の人。
そう、だ…此処は鬼殺隊で。
この人は、柱。
「なん、で…?…っ」
「ああ、動かなくていい。急な体の損傷に、体以上に心が動揺したんだろう。今は休むことだ」
体を起こそうとすれば、思い出したように右手に鈍い感覚が走る。
優しく肩に手を添えられて、再び寝かされたのは…この柔からな感覚は、杏寿郎の膝だったんだ。
内心動揺しつつ、目に入ったのはぐるぐるに包帯が巻かれて見えなくなっている右手。
でもこれ、胡蝶の手当てじゃない。
何度もその治療は受けてるからわかる。
こんな無造作な巻き方はしないはずだ。
「これ…杏寿郎、が?」
「急いで処置したから、付け焼き刃のようなものだが。痛むか?」
「…大丈、夫…」
最初に比べれば、平気。
痛みで意識を飛ばしてしまう程のあの衝撃に比べれば。
「でもなんで、杏寿郎が…?」
「呼ばれたからだ」
呼ばれた?
見栄えのない檻の中。
杏寿郎の膝から見上げたその顔の後ろから、ぴょこりと覗いてくる小さな頭。
「…あ」
それはあの伝言鴉だった。