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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第8章 むすんで ひらいて✔



 相手が動物であっても、鬼殺隊として生きている者には変わりない。
 それに手を出してしまったら駄目だ。
 例えそうでなくても、こんな獣染みたこと。


「ぅ…ッ」


 握り潰してしまう前にと、どうにか押さえ付けていた手を退く。
 崩れ落ちた右手を庇ったまま、這い擦るようにして檻の奥へと引っ込んだ。


「行っ、て…」


 私の手の届かない場所に。
 遠くへ行ってしまって。

 視界には入れずに、どうにか言葉に変えて訴える。
 また牙を向いてしまう前に。
 二度目は止められないかもしれない。
 その前に。


「そば…に、来ない…で」


 痛みで頭が朦朧とする。
 そういえば前回の飢餓症状が出たのはいつだっけ…憶えてない。
 ちゃんと把握しておくべきだった。


 バサッ


 羽音が聞こえる。
 地面に落としたままの頭を横たえて、微かに見えたのは暗い通路を遠ざかる小さな影。

 ああ…目が見えなくても飛べたんだね。
 ………いいな。

 私もあんなふうに飛んでみたい。
 何処にでも行ける羽根が欲しい。
 そしたら、なんの垣根もない広い広い空を高く飛び立って──





 そして、太陽に焼かれて朽ちるんだろう。





「…っ」


 焼けるような痛みが段々と酷くなる。
 感覚さえも焼かれて朧気に途切れていくようで、目の前が霞む。

 誰もいない、気配もない。
 やっぱり自分は独りなんだと、そんな場違いなことをふと思いながら。






 意識は、ぷつりと消え去った。











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