第34章 無題
閃光は一筋の光となり、荒々しく脈打ち、龍のような姿となって牙を剥く。
地を抉り火柱を上げながら、歓喜の表情で迎え撃つ猗窩座を喰らった。
ドォオンッ!!!!
真正面からぶつかり合う技と技。
それは大気を震わせ、地を揺らし、空気を暴発させて真っ黒な噴煙を吹き上げた。
「杏寿郎…ッ」
ばたばたと髪を荒く巻き上げる熱風のような風。
何も見えない噴煙を食い入るように見上げ、蛍は咄嗟に駆け出そうと立ち上がった。
「っぁぐ…!」
それも束の間。
関節の外れた四肢では体を支えられない。
前に一歩進んだだけで不格好に地面に倒れて再び這いつくばり、濁った悲鳴を上げる。
(っ杏ッ寿郎…杏寿郎!)
それでも緋色の目は、姿無き杏寿郎を捜し続けた。
童磨戦で一度目にした、渾身の力で繰り出された炎の呼吸〝奥義・煉獄〟。
だからこそわかる。
あの時、童磨は体の大半をその技によって喰われ、勝敗が決まった。
今度はどうだ。
炎虎よりも更に巨大な龍が牙を剥いて猗窩座を喰らう瞬間、鬼の両手から放たれた〝滅式〟によって火花が散り散りに散っていた。
上弦の弐よりも下の階級であっても、猗窩座は本体だ。
童磨のような仮初(かりそめ)の姿ではない。
対面するだけでびりびりと肌に感じていた威圧は、彼が持つ闘気そのもの。
だからこそ童磨を相手にした時のような確かな手応えは、未だ感じられない。
「杏…ッ」
痛む体に鞭を打ち、這い進む。
少し体を動かしただけでも激痛が走ったが、そんなものは止まる理由にならなかった。
鋭い爪を地面に突き立てた右手が、びきりと呻る。
そこから呼応するようにどくどくと脈打つ血管が浮き上がり、関節を外され膨張し腫れていた右肩が、徐々に面積を縮めていく。
杏寿郎の姿が見えない。
二人は。結果は。
どうなった。
(早く…ッ!)
足では駄目だ。
足首だけでなく腰骨もやられている。
一つを治したところで満足に歩けもしない。