第34章 無題
(余計な思念は邪魔だ)
片足を下げ、腰を低く。左腕を脇に添えて、拳を握った右腕を突き出す。
「破壊殺」
足場に雪の結晶を描いた時のように、猗窩座の肌が青白い闘気を纏う。
それはゆっくりと両手の拳へと移っていった。
「〝乱式(らんしき)〟」
聞いたことない新たな技だ。
それよりも杏寿郎の肌を粟立たせたのは、拳一点に闘気が集中した際に起こる威圧だった。
「(来る!)〝盛炎のうねり〟!!」
猗窩座の攻撃をその目で見る前に、杏寿郎は目の前に炎の壁を作り出していた。
拳で打ち込むのは空式と同じ型だ。
違うのはその量だった。
ドドドドドッ!!
目で追えない高速の両拳の連打。
連続で打ち込まれる打撃が重なり、炎の壁を越える大きな衝撃は荒れる津波のようだ。
「ぐぅ…ッ!」
一発でも杏寿郎の足を止める程、十分な威力を持つ打撃。
それが波となり大きな破壊力を持って炎の壁を打ち飛ばす。
「まだだ。空式!」
「っ不知火!」
距離を詰めたのは猗窩座の方からだった。
炎の壁が消し飛ぶと同時に、懐まで入り込んでいた猗窩座が下から抉るように拳を打ち上げる。
ドォンッ!と地響くような音を立てて、互いの技が正面から衝突した。
「脚式(きゃくしき)!!」
「気炎万象!!」
衝撃の余韻が消えないうちに、新たな牙が剥く。
一つ当たれば命が消し飛ぶ程の技が、幾度も交差し衝突を招いた。
瞬く間に上がる土煙で、二人の姿が見えなくなる程に。
それでも洗練された感覚で読み取る杏寿郎と猗窩座は、攻撃の手を緩めることはなかった。
鼓膜を震わすような轟音が響く度に、ぱらぱらと蛍の手が握る地面の砂粒が踊る。
全身に伝わるのは衝撃のみで、二人の姿を視認できない。
それでも土煙から上がる炎の柱に、青白い闘気は止むことがない。
それが戦闘の激しさをひしひしと蛍に伝えていた。