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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第34章 無題



 蛍自身を見る限りは、そこらにいる鬼と然程変わりないように思える。
 女好きの童磨の好みに合っただけかと思っていたが、それだけで無惨が直々に上弦の鬼達に捕獲命令を出すはずはない。

 それだけの理由があったのだ。


(もしも陽の光を克服した術を扱う鬼ならば、童磨が目をつけずとも無惨様なら欲しがるはずだ。あいつはただのお飾りか)


 どうせ無惨の意向に口を合わせて担ぎ上げただけなのだろう。
 ごますりの上手い童磨ならしそうなことだと、嫌悪混じりの顔で笑う。


「俺は弱い奴に興味はない。人間でも鬼でもそれは変わらん」


 手の中で握り潰した朔ノ夜の面影は最早どこにもない。
 それを作り出せるのは蛍だけだと、改めてその姿を捉えた。


「だがお前の持つ異能(ちから)には多少興味が湧いた。無惨様の所に着く前に、色々と聞かせてもらおう」


 鬼の中で陽光は絶対的存在である。
 それは鬼の始祖である無惨さえも変えられない事実。
 もしその事実を覆すことができる鬼とあらば、猗窩座にも未知である底知れぬ力を持っているのかもしれない。

 力は強さだ。
 自分にはない強さを持つ鬼ならば、目を向ける価値はある。


「"これ"が終わったらな」


 猗窩座の深めるような笑みを、初めて真正面から見た気がした。
 興味の無さそうな瞳や態度ばかりだったからか。初めて向けられた嬉々足る笑みに、蛍の喉がひゅくりと震える。


「お前に"これ"の次はない」

「──!」


 その声が耳に届く前に、猗窩座は首筋に熱を感じた。
 捻った頸を戻すより速く、赤い日輪刀が迫る。
 煮え滾るような熱が、刃を皮膚に触れさせる前に焼き焦がす。


「ふ…っははは…! それでこそだ杏寿郎!」


 明らかに速度と密度が上がった炎の技。
 低い声で呻るように告げる杏寿郎の表情は、先程と一変していた。

 ぶしりと頸から赤い血が舞う。

 背をしならせ、仰け反りぎりぎりに刃を避けたかに思えたが、煮える刃は猗窩座の頸の皮膚を焼き斬っていた。
 急所を傷付けられたのは何十年ぶりか。
 忘れていた痛みを思い出せたようで、猗窩座は頸を抑えて尚歓喜した。

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