第34章 無題
「〝盛炎のうねり〟!」
弐ノ型、参ノ型、肆ノ型と立て続けに技を放つ。
広範囲を焼き払う肆ノ型は、今度は腕で防御したくらいでは防ぎ切れない。
「ッ…!」
更には両足は影の沼に深々と捕えられている。
そこらに転がっているような鬼の血鬼術なら、蹴り一つで破ることができた。
ただ蛍の纏う影は、そこらに転がっているような技ではないようだ。
ぎ、と鋭い牙で唇を噛むと、猗窩座は全身を襲う炎をまともに喰らった。
「やった…!?」
赤々と燃える炎が蛍の顔を照らし出す。
鬼の肌を焼き上げる、殺傷能力を持った杏寿郎の炎だ。
致命的な斬首に至らなくとも、猗窩座に痛手を負わせられたのでは。
「…ふん。成程。あいつが一目置く理由がこれか」
「──!」
炎の呼吸は実際には炎を出現させる訳ではない。
それでも洗練された技は見る者の脳を刺激し、肌を熱いと感じさせ、炎の舞い上がる様を視界にくっきりと映し出す。
それはごうごうと燃え盛る炎の轟きも同じだ。
それでもはっきりと蛍の耳に届いた。
「少しは面白い技を使う」
炎の中から淡々と語り掛けてくる、猗窩座の声が。
「だが所詮上弦には凡そ及ばない力だな」
肌を真っ黒に焦がしながらも、驚異的な再生能力ですぐに新しい皮膚を上乗せしていく。
異常な様で炎の中に立つ猗窩座は、己の足に喰らい付く影鬼だけを見ていた。
杏寿郎の炎を喰らっているのは猗窩座だけではない。
影鬼もまた血鬼術故に、それ以上増幅する様子は見られない。
柱に押さえ付けられる程度の鬼の力。
そんなものかと、みしりと猗窩座の腕の筋肉が膨れ上がった。
「破壊殺──〝砕式(さいしき)〟」
通常の二倍にも膨れた腕を大きく振り被る。
猗窩座が拳を向けたのは、己の足場。
地面一面を覆う影だった。
ぞわりと蛍の肌が粟立つ。
猗窩座の闘気そのものを朔ノ夜に向けられたからか。
距離は離れているというのに、まるで急所を狙われたかのような寒気が体を襲った。
──ドゴォッ!!
一つの拳により、地が割れる。