第8章 むすんで ひらいて✔
そう言えば…お泊まり会の時も、寝入る前はこんなふうに真っ暗闇だったな。
それでも不思議と安心できたのは、包んでくれていた羽織が温かかった所為なのか。
傍にあった二人の体温が温かかった所為なのか。
休息稽古なんて半ば冗談みたいな稽古だったけど、今思えば…あれはあれで──
「…お泊まり…楽しかった、な…」
此処へ来て初めて、覚えた感情だった。
お揃いの寝間着を着たりだとか、枕をくっつけ合って怪談話をしたりだとか。
飢餓症状に悩まされたり岩柱の言葉に落ち込んだり、大変なこともあったけど。
振り返れば楽しかったと思えるのは、きっとそんなことを今までしたことがなかったからだ。
此処で独り何もない時間を過ごしているよりは、ずっとあっという間な時間だった。
すん、と何も溢れていないのに鼻を啜る。
膝に顔を埋めたままでいると、何も見えない暗闇の中。
「カァ」
自分以外の声は耳によく通った。
「…え?」
今…鳴いた?
思わず顔を上げれば、変わらずあの巣箱の上には鴉の姿。
其処から一歩も動いていないけれど、確かにその方角から聞こえた気がした。
鳴いた、よね…今。
喋ってはいないけど。
もしかして私に声を掛けてくれたのかな…。
ゆっくりとその場から腰を上げる。
巣箱は檻の向こう側に設置してある。
手を伸ばしても高い位置にある巣箱には届かない。
けれど近寄れる距離まで詰めてみた。
初めて近付いた距離に、それでも巣箱の鴉は逃げる素振りを見せなかった。
近くで見れば右目の傷がはっきりと見える。
縦に刻まれた鋭い傷跡が、戦場の酷さを物語っているようだ。
だけどそれ以外は羽毛も艷やかだし尾羽も鉤爪もしっかりしている。
…鴉って、近くで見ると中々大きいよね。
「こ、んにちは」
思いきって挨拶を投げ掛けてみる。
躓いて出鼻を挫いてしまったけど、これくらいなんてことない。
「……」
だけど私の挨拶に、鴉の嘴はウンともスンとも動かない。
さっきは鳴いてくれたのに。
またも固く口を閉じてしまった…いや嘴を。
折角話ができるかと思ったのに、なぁ。
「話せなくても私の声はわかるんだよ、ね?」
更に一歩、踏み出す。
だけどやっぱり反応はない。