第8章 むすんで ひらいて✔
暗い檻の中で真っ黒な鴉は見え辛いけれど、観察していれば気付いた。
あの鴉、右目が機能していない。
常に瞑っている右目には遠目からだけど、なんだか小さな傷のようなものが見える。
きっと鬼との戦場で怪我でも負ってしまったんだろう。
鳥類にとって目と羽根は無くてはならないものだ。
その片割れを失ってしまったから…だから私の伝言役なんて仕事をしているのかな。
四六時中飛ばなくていいだろうし。
その片目だけで強い視線をぶつけてくるのも凄いけど。
「君は胡蝶の鴉なの? あ、でもそれなら胡蝶の傍にいなきゃいけないだろうし…誰かの使いになってないの?」
「……」
「使いになってたら此処にはいないよね…そっか。一人なんだね」
あ、一羽か。
そう言い直せばギロリと鋭い片目が威嚇してきた。
その目、なんだかあのおっかな柱を思い出させるよ。
「私と一緒だ」
なるべく場を和ます為に言ったつもりだったけど上手く笑えなかったかもしれない。
言葉にして改めて自分は一人なんだとわかってしまったから。
先の見えない、方法もわからない怖さ。
この言い様のない不安を誰かに伝えたいのに、伝えられない。
お館様と約束したのもあるけど、天地が引っ繰り返っても私の立場は彼らとは重ならないから。
だから…義勇さんの世話を焼く手を、欲してしまったのかな。
湯浴みを手伝ってくれる義勇さんの手は、半ば診察していたようなものだったんだろう。テキパキと部位を触診していく様は、本当にそれしか見えていないようだったから。
それでも久しぶりに感じた人の体温。
それはとても温かかった。
杏寿郎の時と同じだ。
異性に無防備な自分に触れられているのに、嫌悪感を覚えなかったのは。
温かさを知ってしまったから、尚更惨めに感じてしまうのかな。
そんな自分が虚しいと思うのに、独りでいるとどうしても少しずつ堕ちていってしまう。
「寂しいって感じてしまうのは、良いことなのかなぁ…」
抱いた膝に顔を埋める。
真っ暗に変わる視界の中では何も見えない。