第34章 無題
──鬼狩りに殺され続けるのはいつも底辺の鬼達だ
──上弦…ここ百年、顔ぶれの変わらない鬼達
──鬼を山ほど葬っている鬼狩りの柱さえも葬っている…異次元の強さなのか
二百人以上の人間を喰らい、更には鬼殺隊の柱をも喰らい。強靭な力を取り込んで、上弦の鬼に挑むつもりでいた。
入れ替わりの血戦。
その戦いに勝てば、倒した上弦の数字を手に入れることができる。
無惨の血を大量に分けてもらえたのは、その機会を与えられたようなものだと思っていた。
それでも勝てなかった。
上弦の鬼に挑む前に、鬼狩りに、ただの人間にやられてしまった。
やり直したい。
やり直したい。
ひたすらに後悔ばかりが募っていく。
怒りも憤りも、全ては波のように何度も打ち付けてくる後悔には適わない。
もう一度やり直せたなら。
もっと上手く立ち回って、先読みの行動をして、全てを出し抜けたというのに。
やり直したい。
やり直したい。
しかしそれは適わない。
人生は一度きり。
一度経験した未来を立ち止まり、振り返り、駆け戻ることはできないのだ。
例え理を外れた鬼の異能(ちから)を持ってしても。
人間。鬼。動物。植物。
全ての個に違いはあれど、世界は皆に平等に廻り続ける。
そこに差異などない。
「っ…」
口のない肉塊では嘆くことさえできない。
ぶるぶると震える手の形をした触手を炭治郎に伸ばす。
しかしその手は届くことなど到底できず、虚しく宙を掴みぼろりぼろりと朽ち果てていく。
何も掴めはしない。
希望も、願望も、未来も。
ただそこにあるのは〝死〟のみ。
──なんという…惨め…な…
何もできずに、赤子のように己の死を待つことしかできない。
今まで出会ったどの人間よりも、ひたすらに後悔に苛まれながら朽ち果てていく。
鬼である魘夢にとって、それは地獄そのもののような時間だった。
──悪夢……だ…
誰に気付かれることなく。
誰に知られることもなく。
最期の細胞が、ぼろりと脆い消し炭のように大きく欠けて。
人知れず虚しく、夜の闇に消えていった。