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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第34章 無題



 ぼこぼこと肉塊が目の前でうねる。
 その下に、魘夢の急所である巨大な頸の骨があるのはわかっているのだ。

 守るように、盾になるように、分厚い肉塊が幾重も重なり小山を作っている。
 呼吸の斬撃で肉壁を切り払っても、すぐにまた新たな肉壁ができるのだ。
 一人では到底、倒せない。


「伊之助! 呼吸を合わせろ! 鬼の頸を斬るんだ…ッ連撃いくぞ!!」


 腹部の傷は致命傷とはいかずとも、確実に炭治郎の体力を削っていく。
 苦しそうに顔を歪めて告げる炭治郎に、伊之助は出そうになった暴言をぐっと吞み込んだ。
 いつもなら他人に大人しく従うことなどしない。
 いつものように炭治郎に反発しようとしたが、その言葉は形にならなかった。

 自分を守る為に、負った傷だ。
 それでも戦おうとしている炭治郎にこそ、誰より時間がない。


「っ…」


 返事こそしなかったものの、伊之助もまた炭治郎の隣に並んで刀を構えた。
 今までは二人別々に、群がる肉塊を相手にしていた。
 刀の向きを揃えたのは初めてだ。

 その気配を感じ取ったのか、魘夢の肉塊も突如として膨れ上がった。
 ぼこぼこと歪に膨らみ、一斉に巨大なミミズのような触手が襲い掛かる。

 タンっと二人の足が跳んだのは同時。
 群がる巨大な触手を回避しながら、同時に斬り捨てていく。
 触手を足場にして更に上へ上へと駆け上がれば、切り捨てられた肉の足場はやがて崩れ落ちた。

 同時に二人の体も落下する姿勢となる。
 途端に、それを待ち構えていたかのように肉壁の至る所にぎょろりと巨大な目が開いた。


(まずい! 今眠ったら…!)


 魘夢の強制睡眠の血鬼術だ。
 落下している今、眠ってしまえば無防備な状態で床に叩き付けられることになる。
 例え致命傷を裂けても無傷ではいられないだろう。


「クソがァ!」


 焦る炭治郎の耳に、伊之助の雄叫びが響いた。


「いくぞ! ついてこい!!」


 炭治郎とは違い、伊之助は魘夢の血鬼術を然程喰らっていなかった。
 理由は一つ、常にその頭に被っている猪の頭部にある。

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