第34章 無題
猛進するように走り続ける無限列車。
先頭車両では、魘夢の頸を巡り炭治郎と伊之助が共闘していた。
それでも相手は下弦の壱。
盛り上がり先頭車両を覆い尽くす分厚い肉壁は、至る所に目玉を浮かべて血鬼術を仕掛けてくる。
その目玉と視線が合えば、一発で強制睡眠に落とされてしまう強力な術だ。
その度に夢の中で己の頸を斬り、自決を繰り返すことで目覚めていた炭治郎だったが、そこにも限界が見えてきた。
鬼と人間では元々体力に差がある。
どんなに鍛えようと人間には体力の限界があり、対して鬼は無限に再生し続けられる身体があるのだ。
「夢の邪魔をするなァ!!」
「伊之助!…ぐぅッ!」
疲労は隙を見せる。
その隙は、一般人であろう先頭車両にいた駅員の攻撃をも可能にした。
駅員の男もまた、魘夢が見せる幸せな夢に縋っていた人間だった。
伊之助に向かって走る男の手に、鋭い錐が握られているのを炭治郎の目が捉える。
同時に体は二人の間に割り込み、男の錐の一撃を炭治郎は真正面から受けていた。
深々と細い錐が炭治郎の脇腹を貫く。
痛みに歯を食い縛り、それでも致命傷ではない攻撃に炭治郎も反撃に出た。
駅員の頸の急所に強い手刀を落とし、おさげ少女にしたように気絶させる。
「刺されたのか!」
「っ大丈夫だ」
「そんなクソ野郎ほっとけ!」
「駄目だ、死なせない…!」
腹部から錐を引き抜くと、じわりと炭治郎の黒い隊服が深い血の色を纏う。
それでも気絶させた駅員を、せめて魘夢の攻撃が向かないようにと車両の隅へと引き摺っていく。
そんな炭治郎の気遣いに、伊之助は鼻息を荒くした。
「早く鬼の頸を斬らねぇと皆もたねぇぞ!」
「わかってる、急ごう」
苛立ち混じりに目の前の肉塊に刃を突き立てる伊之助の言っていることは、尤もだった。
このまま持久戦にもつれ込めば、明らかに分が悪いのは人間側だ。