第8章 むすんで ひらいて✔
ぽたりと、どこかで水滴が打つ音がする。
はっきりと視界に、彩千代の体の輪郭が伝わってくる。
「義勇さん?」
柔らかな曲線を描く体には、湯浴衣以外何も身に付けて──
「ッ」
「わっ!?」
その先の思考は強制的に断ち切った。
咄嗟に握っていた綿織物で、彩千代の体を素早く覆う。
「ぎ、義勇さん?」
ぐるぐる巻きにして視界からその肌色をなるべく遠ざけて、檻の中へと押し込んだ。
「さっさと寝ろ。明日は休め」
「ちょ、待っ」
「三日後にまた来る」
「三日も休むのっ?」
抗議する暇は与えず、押し込んだ檻の戸を閉じる。
どうにか視界に映ってしまったものを頭の外に追い出すようにして、彩千代自身からも目を逸した。
全部は見ていない。
俺は見なかった。
三日経てば忘れられる。はずだ。
「体と頭を休めることだ。いいな」
「あ、ちょ…っ」
片した水釜と桶を担いでその場を去る。
半分は彩千代の現状を見て告げた休みだが、残りの半分は自分自身の為だった。
こんなことで動揺するなんて未熟な証だ。
…もっと精進しないと。