第8章 むすんで ひらいて✔
綿織物の間から覗く、彩千代の顔。
「その…義勇さんに世話焼かれるの、嫌じゃ、ないから…」
ぽそぽそと小声で告げる彩千代の顔は、熱を取り戻したのか火照ったように僅かに赤い。
そんなことを彩千代の口から聞くとは思ってもいなかったから正直驚いた。
「…子供か」
「っち、違ッ」
思わず突っ込んでしまえば、更に彩千代の顔色が赤くなる。
その表情は見たことがなかったものだから、ついまじまじと見てしまう。
すると視線から逃げるようにして彩千代の目が背けられた。
「義勇さんは、沢山話をする方じゃないから。こうやって、行動でも応えられると…私の声は届いてたんだって、思うから」
確かに、自分が饒舌じゃないことは理解している。
そういえば胡蝶にもよく言葉が足りないと言われるな…必要最低限には話してるつもりだが。
「だから、なんであっても…世話、焼かれるのも…嫌じゃ、ない」
俯き加減に、それでも彩千代の表情は見える程度にはこちらを向いている。
以前、話す時は目を見ろと言ったからだろうか。
まだ濡れて艶やかに光る髪先が、頬や頸に張り付いている。
同じに艶の残る睫毛が伏せがちに肌に影を落として、いつも見ている彩千代の顔をまるで違うもののように見せた。
ほとんど毎日見ているから、見慣れていないはずはないのに。
俺はこの彩千代の顔を知らない。
だからなのか。
何故か目が離せなかった。
「……」
「…あの」
「……」
「義勇、さん?」
「……」
「…ぉーぃ?」
動かない俺に、疑問にでも思ったのか彩千代の手がひらひらと視界を横切る。
その手の動作にようやく視線が動く。
彩千代の顔から外すようにして、目を下に向けて──固まった。
「義勇さん?…大丈夫?」
不安を残すような彩千代の声。
それも耳に残らないくらい、目の前の光景に一瞬思考が停止する。
被せた綿織物の間から見える、肌色。
着せた湯浴衣は濡れた所為で隙間なく彩千代の肌に張り付いて、視界を遮る役割を放棄していたからだ。