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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「待っ…何処へ…!?」

「お前が本当に彩千代蛍なら、連れていく」

「連れていくって…っ待って…!」


 どんなに足を踏ん張っても、腕を引き抜こうとしても、びくともしない。
 背中を向けて歩き出す男に、ずるずると踏ん張る足が土を盛り上げて引き摺られていく。

 男に問いかけてもまともな回答は得られない。
 それでも向かう先が良い場所であるはずはないことは理解していた。

 そして。


「若菜ちゃん…ッ」


 彼女を此処に、一人置いていく訳にはいかない。
 咄嗟に振り返りその名を呼べば、びくりとおさげ少女の体が震えた。
 蒼褪めた顔は、男の威圧にやられているのか。

 蛍の呼び声に、男がちらりと視線の端だけで若菜を捉える。


「…人間の女か」


 その声は最初に聞いた時と同じく、冷たくはないが素っ気ない。


「行くぞ」

「い…ッ」


 やはり異性には興味がないのか。
 確認などする暇もなく、再び強い力に引き摺られた。

 咄嗟に抗おうと反射的に動かした左肩が痛む。
 そう言えば肩が外れていたのだと思い出せば、同じに男が肩に視線を向けた。

 今の今まで興味など持っていなかったはずが。じろじろと蛍の肩を見て、すぐに異変を拾い上げる。


「鬼の癖して軟弱か。こんなものさっさと戻せ」

「も、戻すって…い"っ!?」


 先程恐怖を覚えたような、苛立ちの表情はない。
 しかし無表情に怪我をした肩を掴まれれば、さぁっと蛍の顔から血の気が退いた。

 嫌な予感がする。


「ぃ…嫌…っいやいやいやいや!」

「……煩い。まだ何もしてない」

「する気でしょうそれ! なんですかその手! 関節戻す気だとかまさかそんなことしませんよね!? なんの荒療治! 要らない!」

「……」


 見た目の面積の少ない服装からしても、筋肉隆々な身体を動きやすくさせるそれは武闘派だと宣言しているようなものだ。
 蛍の腕二本分は軽くある屈強なその腕で、一体何をする気なのか。
 「戻せ」と言った言葉が恐怖でならない。

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