第33章 うつつ夢列車
「あいつの手先なら余計に興味はない。失せろ」
上弦の参であれば、弐である童磨より階級は一つ下のはず。
それでも男は童磨に冷たい反応を見せた。
「は、配下では、ないです…」
「なら何故あいつの名を出した」
「同じ、上弦様だったので…知っておられるなら、話は早いかと…」
「なんの話だ。俺とお前が此処で今、何を話すことがある」
「…それ、は…」
何を言っても受け入れる姿勢はない。
冷たい男のその姿を、蛍はまじまじと見た。
自分が鬼であることを理解しているのならば、手を出さない理由にはなる。
しかし隣に立っているのは人間である若菜だ。
そこにも一欠片の興味も持っていないのは、何故だろうか。
(上弦ともあろう鬼なら、人間を見抜くことなんて容易いはずなのに)
最初から男は自分達に興味を持っていなかった。
その一言目は〝女〟であることだった。
(異性だから興味がない?)
理由は定かではないが、その可能性はある。
そして童磨が関わっているとあらば、余計に抵抗を覚えるらしい。
だがそれは見方を変えれば好機だ。
反応を示すものを選び取って、男をこの場に少しでも足止めさせる為の。
「あの…上弦の参様は、どうして此処に…?」
「何故訊く」
「同じ鬼として気になって…」
「俺は鬼のお前に興味はない」
やはり取り繕う暇もない。
再び背を向ける男に、蛍は慌てて線路の上まで駆け寄った。
頑なに動こうとしない若菜の腕は致し方なく離すしかなかったが、この様子だと男も若菜に手を出す気はないだろう。
「では何処へ向かわれるのですか? あの、私、道に迷ってしまって…っ」
どうにか止められないかと必死に言い訳を並べれば、再び無言の視線が向く。
「っ」
ぶわりと、蛍の全身の産毛が逆立った。