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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「恩を売るつもりもないし、慈悲なんてものを押し付けるつもりもない。私は私が守りたいひとの為に動いただけ」


 最初こそつっかえていた声も、本来の響きを取り戻してくる。
 無事な左手で地面に手をつき足腰を踏ん張れば、多少ふらつきはしたものの、どうにか立つことができた。


「私が鬼であることは誰が何を言おうと変わらないし、そこに対する他人の思いも簡単には変わらないことを知ってる。だから期待はしてないよ」

「……」

「貴女が私に、期待しないように」


 冷たい言葉のようで、声色にその気はない。
 諦めたように笑う顔は苦いようで、どこか清々しくも感じる。

 今、進むべき自分の道を知っているだけなのだ。
 簡単なようで決して容易ではない己の意志を、この鬼は持っている。

 噛み締めた唇に力を込めただけで、おさげ少女は沈黙を貫いた。


「よし。じゃあ列車を追いかけよう」

「…は?」


 その沈黙も、次の言葉につい破ってしまっていた。
 さも当然のように蛍は言うが、列車の姿などとうに見えない。
 近くに村も何もない場所に、放り出されてしまったのだから。


「幸い、動くのに支障はなさそうだし。今動けば、追いつけるかもしれない」

「何言ってるの。相手は動いている列車なのに、到底追いつける訳ないじゃない」

「ただの列車じゃなく、魘夢が融合した列車だからね。炭治郎達が倒すことができたら追いつける」

「そんなの、可能性の話でしょ。全員やられることだって」

「ないよ」


 とん、と一度地を踏み直す。
 足の骨には異常がないことにほっとしつつ、顔を上げて蛍は笑った。


「師範がいる。あのひとなら魘夢に負けることはない」


 事実、魘夢と対峙したからこそわかる。
 例え下弦の中で最高の位を持っていたとしても、杏寿郎に膝をつかせることもできないだろう。

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