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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



(なんで…っ起きてる者を狙ってる!?)


 狭い車両でどうにか身を捻り、飛び越え、狙い打ちにしてくる触手を掻い潜る。
 明らかに狙われているのは自分自身だ。
 魘夢の人間に対する敵意がそうさせているのか。

 それは杏寿郎や、果てには結核の少年、おさげの少女にまで及んだ。


「ッ!」

「わッ!?」


 手の届く距離にしたのは結核の青年だ。
 乱暴だが選択肢はなく、咄嗟に襟首を掴むと蛍は自身に引き寄せた。


「私の影に! じっとしてて!」

「は、はいっ」


 狙い撃ちにしているのは起きている人間だ。
 何を基準にして判断しているかは不明だが、じっと息を潜めていれば暴れる自分より格段に狙われる可能性は減るだろう。

 現在進行形で朔ノ夜は鬼の触手を抑え続けている。
 一時的に膨張した魘夢の力だが、弱らせれば再び抑え込むことができるかもしれない。


「師範! 力を──」


 杏寿郎の力があれば、それは成し遂げられる。
 そう告げようとした蛍の視界に、分厚い肉の触手が映り込んだ。


「むぅ…!」


 その触手が、錐を握るおさげ少女に巻き付き取り込む姿も。

 口に、四肢に、胴に。
 あらゆる動きを制限するようにとぐろを巻いた触手は、まるで巨大な蛇のようだった。
 強い力で引き摺り、盛り上がる肉壁へと押し付ける。
 肉片でありながら、取り込むようにずぷりと少女の半身を飲み込む。

 ぞっとした。


「駄目ッ!」


 鬼は人を喰らう。
 その方法は千差万別だ。

 テンジのように記憶を喰らう鬼だっている。
 今目の前にある光景のように、取り込むことで喰らう鬼もいるだろう。


「炎の呼吸」


 ゆらりと、視界の端で炎の片鱗を見た気がした。
 それが杏寿郎の技を放つ時に見せる幻影だと蛍が悟る前に、赫刀は肉壁に向かって炎を上げていた。

 〝弐ノ型──昇り炎天〟
 〝参ノ型──気炎万象〟

 立て続けに放たれたのは二つの呼吸。
 下から上に向けて円を描くように回転する刃。
 上から下に向けて大きく弧を描くように振る刃。
 対(つい)となるような二つの型は、根こそぎおさげ少女を取り込もうとする肉壁を大きく抉り斬っていた。

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