第33章 うつつ夢列車
『うぎぃあああぃいあぁあぁあ!!!!!』
「「「!?」」」
突如列車全体に響き渡る、悲鳴のような唸り声。
それが魘夢の声だと気付かずとも、列車と融合した鬼のものであることは皆理解できた。
理解はできたが、そこまでだ。
びりびりと列車全体を震わせるような地響きの呻りに、一瞬体が止まってしまった。
「っ…!」
「うあ…!?」
ただ一人、おさげ少女だけはふつふつ体の中で湧き上がる怒りで、恐怖など感じていなかった。
皆が驚き周りに目を向けた瞬間、弾けるように飛び出して結核の青年に体当たりをする。
相手は男でも、病弱な体はいとも簡単にバランスを崩した。
その懐からもぎ取ったのは、同じ立場であったからこそ所持しているのを見抜いていた物。
魘夢の骨で作られた、あの鋭い錐だ。
「何を…っ」
「近付かないで!」
「危ないッ!」
ひゅんと風を切るように振られる錐は、扱う者が一般人の少女であっても物が物だ。
青年の白い肌を容易く裂いてしまう気配に、反射的に蛍は手を伸ばした。
ガタン、と大きく列車が揺れる。
魘夢の呻り声が上がったということは、炭治郎と伊之助が急所である頸を見つけ出したのか。
しかし斬首にまでは至っていないことを瞬時に悟った杏寿郎が、膨張するような悪鬼の気配を感じ取る。
「(いかんッ)構えろ! 来るぞ!!」
「え──」
朔ノ夜の制圧により普段の列車と同じ内装を取り戻していたはずの壁が、ぐにゃりと変形した。
それが鬼の肉片だと理解すると同時に、大量の人の手の形をした触手が飛び出す。
朔ノ夜の影を弾き、暴れる程の力。
それだけ窮地に追いやられているのか、それとも炭治郎達が苦戦を強いられているのか。
理由は定かではなかったが、考える余裕など蛍にはなかった。
一番危険なのは、無防備に寝ている乗客達だ。
咄嗟に守ろうと駆け出す前に、狙いを定めたかのような触手が蛍に飛び掛かる。