第33章 うつつ夢列車
『竈門妹と黄色い少年には、最後尾に避難してもらう』
『避難? なんで?』
『竈門少年達が悪鬼の頸を斬ったならば、その時はこの列車自体が反動を受けるだろう。脱線事故を起こしても可笑しくはない』
『そんな…っ事故の回避は?』
『列車そのものが悪鬼なんだ。完全に回避することは難しいだろう。だからこそ二人には、比較的被害の少ないであろう場所へと非難してもらう』
『だとしても乗客は? 寝ている人達は移動できないし…』
『だから蛍の力が必要なんだ』
事前に杏寿郎と話した結果だった。
魘夢の肉壁を抑えると共に、万が一の事故に備えて乗客を守る為の盾ともなる。
それが朔ノ夜を扱える蛍の役割だ。
「さぁ、鬼も人も待ってはくれない。迅速な行動を頼んだぞ!」
「ム!」
「善逸、禰豆子をよろしくね」
「任せ…て…すぴぅ」
「う、うん」
禰豆子にとって、人間は守るべき存在。
聞き分けよく頷く彼女を先頭に、最後尾へと向かう。
続く善逸は未だうつらうつらと頭を揺らしていて、いまいち不安は抜けないが、落雷のような呼吸は肌で感じた。
彼なら禰豆子を守ってくれるだろうと、蛍も明るい表情で見送った。
(よかった。善逸も禰豆子も、炭治郎も伊之助も。皆大丈夫そう)
魘夢が列車と融合した時は驚いたが、皆の前向きな姿は心強い。
何より杏寿郎が目覚めてからの行動は、何もかもが迅速だった。
杏寿郎の柱としての力量は間近で見て知っていたつもりでいたが、炭治郎達他の隊士が関われば尚の事強く感じる。
どれだけその姿勢が、皆を引っ張ってくれているのか。
「さて! 蛍も最後の車両の包囲は終えたな?」
「うん。随分、朔は小さくなっちゃったけど」
「ふむ。こうして見ると普通の金魚のようだ」
ただ列車を覆うだけではない。
魘夢の力を同時に抑え込む為に、限りなく限界まで朔ノ夜の力を要した。
故に巨大だった金魚も、今では縁日などで見かける金魚すくいのそれらとなんら変わらない。
小さな小さな黒い金魚が、ふよふよと蛍の周りを漂っているだけだ。