第33章 うつつ夢列車
禰豆子達のいる車両に戻ってくる間に、死者は一人も見られなかった。
杏寿郎の常人には目で捉えられない程の身のこなしのお陰でもあったが、目の前のこの鬼の少女と剣士の少年のお陰でもある。
「善逸も禰豆子を守ってくれて…善逸?」
「禰豆子ちゃ…すぷす…」
「すぷ…えなんて?」
「少年は未だ夢心地のようだ。これだけ動けているなら心配ない。邪魔しないであげよう」
「え? 夢の中? まだ夢の中なの? じゃあ魘夢の術にまだかかってるってことっ?」
「いいや。この調子なら術からは抜け出せているだろう。だが特殊な戦闘法を行うようだ」
「…あ。前にそんなこと炭治郎が言っていたかも…」
機能回復訓練で、炭治郎達がしのぶの蝶屋敷で過ごしていた頃。何度も顔を見せに行った蛍が、彼らとの談話の中で耳にしたものだったように思う。
気弱なところも多いが、悪鬼との戦場を何度も潜り抜けてきた少年だ。
善逸もまた、それだけの腕を持つ剣士なのだ。
「元の場に戻ってきたな。では竈門少女、黄色い少年。君達に今後は車両の最後尾を守ってもらおう」
「ムゥ?」
「そこも一度、俺と蛍で鬼の肉壁を弱らせてある。今以上に戦い易いはずだ」
「此処が最終到着点だったから、途中で屋根を伝って通ったの。外にも鬼の肉片は見えていたし。こう、ぐるーっと一周してね」
「う~…?」
不思議そうに車両の前方と後方を交互に見る禰豆子に、身振り手振りで蛍が説明をする。
最後に禰豆子達がいる車両に戻って来られるよう、全ての車両を回ってきた。
実際にこの足で駆け抜けた場所は全て、朔ノ夜の影鬼で覆ってきたのだ。
これで準備は整った。