第33章 うつつ夢列車
禰豆子に善逸の言葉が全て理解できているのかは定かではない。
それでも少女の目は、決して大きくなくとも頼もしい背中を見つめていた。
「ふがっ…守る…んが、すぴ…」
「……」
それも束の間。
寝言のように不安定に続く声は、善逸がまだ半ば夢の中にいる証拠。
ぷくりと鼻ちょうちんを浮かばせる程に、その意識は彼方に飛んでいる。
善逸が秘めたる本領を発揮するのは、己の意識がはっきりとしていない時である。
そのことを知ってか知らずか。禰豆子は無言で、善逸の姿を見つめ続けていた。
先程の一心に見つめるような視線とは異なり、きょとんとした目で。
「ふむ。告げずともやるべきことをやれているようだな黄色い少年! 感心感心!」
「禰豆子! 善逸! 無事だったっ?」
そこへ唐突に飛び込んできた闊達な声と、安堵と焦りが入り混じる声。
後者の声に敏感に反応した禰豆子は、今度こそ目の色を変えると飛び出した。
「ムゥ!」
「禰豆子っ」
飛びついた先には、咄嗟に両腕を広げて受け止める蛍の姿があった。
「再会は喜ばしいが今は後だ。蛍!」
「はい!」
「ム?」
杏寿郎の声に反応するように、蛍の周りから影の渦がうねり上がる。
たちまちにそれは車両全体を内側から覆うように膨張すると、あんなにも剥き出しにおぞましい姿を見せていた鬼の肉片を壁の中へと押し込んだ。
「黄色い少年が弱らせてくれたお陰だな。助かった!」
「ふが…っぷぴぃ…」
「ふむ、未だ夢の中か。それでこれだけ動けるのは大したものだ!」
「う?」
「一時的に抑え込んでいるだけだから、元に戻った訳じゃないよ。でもこれで一先ず安心かな。皆を守ってくれてありがとう、禰豆子」
「ムフー!」
「うん。偉い偉い」
こくりこくりと船を漕ぐ善逸の頭に、わははと杏寿郎が笑う。
ぐりぐりと押し付けてくる禰豆子の頭を、よしよしと蛍は褒め称え撫でつけた。