第33章 うつつ夢列車
ふむ。と今一度考える。
相手は下弦の壱の鬼。
そこへ向かわせた炭治郎と伊之助の気配は、近くにはない。
最後に感じた時は、列車の前方へと進んでいた。
(車両全体の鬼の気配からしても、急所は前方にある可能性が高いな…とあれば、もし頸を斬れた時は)
列車は最早、鬼の体の一部。
斬撃を受けた時の衝撃は、高速で走り続けているこの蒸気機関車にも及ぶだろう。
後方ならまだしも前方が起爆剤となれば、最悪大事故に繋がる。
「よし。中央に戻るぞ」
「え?」
「最終的には、だ。その前に車両全体の鬼の肉を今一度斬り裂く」
「全体って…」
「全車両にある鬼の肉片だ。その直後を、蛍が朔ノ夜と影鬼で覆え。一度弱らせた状態なら抑えることもできるだろう。いいな」
「っはい」
問いかけではなく指示の言葉だ。
やれなくても、やらなければならない。
大勢の人命が懸かっているのだ。
前を見据えたまま告げる杏寿郎に、蛍も強く頷いた。
「構えろ」
「御意」
刃を鞘に収めるように、腰に添える。
体制を低く、前足を出して駆け抜ける体制で構える杏寿郎の唇の端から、細い呼吸音が通る。
ちりちりと、杏寿郎の周りを小さな火の粉が舞うのが見えるようだ。
呼吸を高め、意識を高め、一つに集中していく。
沈黙。
斬撃を繰り出す前の静けさであることを、蛍はよく知っていた。
こくりと息を呑む。
じっと見つめる杏寿郎の背に乗る髪の先が、ゆらりと火の粉を受けるように揺れた。
刹那。
──ドンッ!!
ばきりと列車の床を踏み壊す。
と同時に、杏寿郎の体はその場から火柱のように猛進し消えた。