第33章 うつつ夢列車
「見てろ。獣の呼吸、弐ノ牙!」
ひらりと真上に飛び上がった伊之助が、重力に習い落ちる。
その速度に合わせ、二対の刃を交差させた。
「〝切り裂きィ〟!!」
交差させた刃により、バッテン印に斬り裂かれる床下。
その下にあったものに、炭治郎は驚愕した。
(骨だ…頸の骨だ!!)
床下は列車の構造などしていなかった。
そこにあったのは巨大な人の頸の骨。
椎骨(ついこつ)と呼ばれる七つの骨が連なり、人の頸を形成している。
その椎骨が見えているのだ。
更には椎骨一つが、人の頭のように巨大である。
まるで巨人が列車の下に潜んでいるかのように思わせる、異様な光景だった。
そして床下に巨人などいない。
列車と融合した煙霧の頸なのだと、瞬時に炭治郎は悟った。
これこそ捜していた鬼の頸。
斬らなければならない存在。
太く、厚く、異様な気配を纏わせるその頸の骨目掛けて、炭治郎は大きく日輪刀を振り被った──
──ザシュッ!
炭治郎が魘夢の頸を見つけ出す、数分前。
目にも止まらない速さで振り下ろされた斬撃が、火を吹く。
轟音のような火柱を纏い杏寿郎が列車内を通る度に、真っ赤に焼けた跡を残して鬼の肉片を切り刻んでいった。
眠っている一般市民の体は傷付けずに、鬼の肉片のみを片付けていく。
杏寿郎が駆け抜けた後には、チリ紙のような細かな欠片にされた鬼の細胞だけが、はらはらと灰のように消えていった。
(竈門少年と猪頭少年は見つけた。後は)
残す鬼殺隊の一員はただ一人。
その姿を見落とすことなきようにと、目まぐるしい速度で進む列車内を隅々まで見渡していく。
先頭車両は炭治郎と伊之助に任せた。
探していない車両も残りわずかだ。
この先に彼女の、蛍の姿はあるのか。
遅れることなくぴたりとついてくる朔ノ夜の気配を感じながら、杏寿郎は次の車両へと踏み込んだ。
「──!?」
視界が一変する。
今まで赤黒い鬼の肉片が覆う車両内を走っていたというのに。
そこはまるで光の見えない、真っ暗な闇の中だった。