第33章 うつつ夢列車
炭治郎が杏寿郎と出会う前に、既に伊之助は炎柱と合流を果たしていた。
杏寿郎と出会ったのは何も初めてではない。
鬼に眠らされる前に、一度言葉を交わしているはずだ。
なのにその時とは比べ物にならない空気、視線、気配全てに、思わず伊之助は委縮してしまったのだ。
反論一つまともにできず、杏寿郎の指示を受け入れる形となった。
それが今となっては腹立たしい。
まるで力量の差を見せつけられたかのようだ。
「伊之助! 前方の三両を注意しながら」
『わかってるわァア! そして俺は見つけてるからな! 既にな! 全力の漆(しち)ノ型で!!』
荒く、破天荒な技が多い獣の呼吸。
その中で漆ノ型は一つ輪を外れたような技だった。
〝空間識覚(くうかんしきかく)〟
山中で獣と育った伊之助は、五感の中で特に触覚が優れている。
その感覚を極限まで高めることで、直接触れていないものの姿まで捉えることができるのだ。
伊之助だからこそ行える無二の呼吸である。
『この主(ぬし)の急所!!』
それは列車と同化した煙霧の頸の気配も、察知していた。
列車の屋根を走る伊之助に迷いはない。
「そうか! やっぱり…っ前方だな!?」
『そうだ前だ! とにかく前の方が気色悪いぜ!!』
「石炭が積まれてる辺りだな!」
『そうだ!』
「わかった!」
列車は常に高速で走り続けている。
故に炭治郎の嗅覚は強い風に流されて機能していなかった。
今は伊之助の触覚を信じることが最善の道。
「よし、行こう! 前へ!!」
列車と列車を繋ぐ通路へと出た炭治郎が、再び屋根へと飛び移る。
既に急所を掴んでいた伊之助は、先を走っていた。
「ウォオリャァアアア!! よっしゃァアア!!」
一直線に突き進む伊之助が辿り着いたのは、車両を引っ張り稼働する大本。蒸気機関車。
「怪しいぜ怪しいぜ、この辺り特に!」
「な、なんだお前は! 出ていけッ!」
石炭庫のある機関室に下り立てば、運転を担う車掌が立っていた。
見た目からして一般市民だが、その気迫は鬼気迫るものがある。