第33章 うつつ夢列車
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「ぁぐッ!?(なんだ今のッ! 鬼の攻撃か!?)」
地震にあったかのような凄まじい揺れを感じて、前のめりに転倒した炭治郎が背中を壁にぶつける。
驚きと焦りの中、転倒した体を立て直した時。
「竈門少年!!」
突如目の前に現れたのは、燃え盛るような炎の気を纏う男だった。
「っ煉獄さん!」
移動する姿など見えなかった。
まるで瞬間的に移動したかのように、その場に出てきたのだ。
「此処に来るまでにかなり細かく斬撃を入れてきたので、鬼側も再生に時間がかかると思うが。余裕はない! 手短に話す!!」
傍らには黒い金魚を連れ、尻餅をついたままの炭治郎に視線を合わせて杏寿郎も身を屈める。
「この汽車は八両編成だ。俺は後方、五両を守る! 残りの三両は黄色い少年と竈門妹が守る!」
言葉通りに、必要なことだけを告げていく。
周りの状況は炭治郎に聞かされずとも、つぶさに駆け抜け、己の目で見てきたからこそ理解していた。
最初こそ悪鬼の頸を斬首することを第一にしていたが、すぐにその優先順位は変わった。
守るべき人間が多過ぎるこの状況下では、己の刃は人々の命の盾となることが最善だ。
炭治郎達だけでは、二百人以上いる乗客全てを守り切ることはできない。
「君と猪頭少年はその三両の状態に注意しつつ、鬼の頸を探せ!」
故に悪鬼の頸を斬るのは炭治郎達だ。
彼らを先へと行かせる為に、自分は後方の守りに回ることを選んだ。
「頸!? でも今この鬼は」
「どのような形になろうとも鬼である限り頸はある!!」
現在、鬼は列車と同化している。
そのことを炭治郎が焦り伝えようとすれば、それよりも早く杏寿郎の顔が近くにずいと迫った。
「俺も急所を探りながら戦う! 君も気合いを入れろ!!」
鬼は人智を超えた力を持つ。
人成らざる姿を持つ鬼も過去に見てきた杏寿郎だからこそ、強い声に揺るぎはない。