第33章 うつつ夢列車
(それと似ているようで違う。此処は何処だ?)
あれは影鬼が、蛍やテンジの感情に反応して生まれた空間だった。
となれば、ここは何処か。
(蛍の心…? いや、彼女は蛍ではない)
一瞬、腕に強く抱いた彼女を見やる。
それも一秒と経たずして否定した。
蛍成らざる者に心は在るのか。
そんな自問自答をしようとした。
──ザァッ
目の前が開けるように、景色が広がったのはその時だ。
渦巻いていた黒い波が過ぎ去ると、其処には赤々とした世界が広がっていた。
「ここは…」
「…火…?」
腕の中の蛍が身動ぐ。
その目に映し出されたものは、じりじりと地面を燃やす無数の炎の塊だった。
四方形の板が並ぶ地面のような敷床。
燃えるものなど何もないのに、その隙間から赤々とした炎が上がっている。
敷板は所々欠けているものもあれば、割れているものもある。
きちんと並べられているようで、少し歪な床が延々と続く世界。
「…熱…」
朔ノ夜が泳ぐ高さまで炎は触れないにしても、幾つもの火が上がっている空間だ。
思わず呟く蛍の言葉通り、そこはじりじりと皮膚を静かに焼くような空間だった。
「此処…出口、じゃないよね…杏寿郎」
「……」
「杏寿郎?」
返答がないと、蛍の顔が上がる。
見えた杏寿郎の双眸は、ただただ目の前の景色を見つめていた。
見覚えのあるものがあるように見えて、その視線は特定のものを見ている訳ではない。
ただ茫然と。静かに。
目の前の光景を静観している。
「どうしたの? まさか此処が出口?」
「……ぃゃ」
「じゃあ…此処が何処かわかるの?」
「わからない。…が、わかる」
「え?」
「上手く言えないが、なんとなくわかる気がする。…恐らく危険な場所ではないだろう。大丈夫だ」
身を寄せる蛍の肩に優しく触れて、杏寿郎はようやくその目に彼女を映した。
口元には笑み。
安心させるように背を擦ると、再び辺りを見渡す。