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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第8章 むすんで ひらいて✔



「そ、そんなつもりは毛頭…ほッ蛍ちゃん! また後日改めて来てもいいかっ?」

「え? 来てくれるの?」

「許可が下りるなら…」


 後藤の目が俺を見る。

 基本、彩千代への接触は柱以外禁止されているが…後藤は彩千代のことを知っている者。
 幸いお館様から追加された禁止事項にも、接触した隠達と会うことは入っていなかった。
 まぁこの男一人くらいなら問題無いだろう。


「一人で来ること。彩千代と会ったことを誰にも言わないこと。その二つを守れると言うなら可能だ」

「大丈夫っス!」


 ほっとした目で、後藤の頭が勢い良く下がる。


「それじゃオレはここで。邪魔して悪かったな、また来るよ!」

「あ、うんっお手伝いありがとう!」


 慌ただしくその場を離れる後藤に、彩千代もまた慌てて手を振る。


「…待ってる」


 最後のその言葉は、小さな絞り出すような声で後藤に届きはしなかった。
 それでも振った手を拳に変えて背中を見送り続ける彩千代の顔は、先程より幾分明るさを増していた。


「さっきよりは顔色がマシになったな」

「…え?」

「湯着だ」


 檻を開けて、白い湯浴衣(ゆあみぎ)を渡す。
 きょとんとした顔で受け取った湯着と俺の顔を交互に見た彩千代は、更に目を丸くした。


「えっと…?」

「着てこい。早くしないと湯が冷める」

「ぁ、うん…っ」


 着物が掛けてある衣桁(いこう)の後ろに回る彩千代を見届けて、檻から背を向ける。
 顔色は明るくなったが、まだ動作はぎこちない。
 これは明日の稽古は休ませた方がいいのかもしれないな…。


「あの、準備できたから…義勇さんも、ここまででいいよ。お湯ありがとう」


 白く薄い湯浴衣一枚になった彩千代が、檻の中から出てくる。
 何を言ってるんだと、思わず溜息が漏れた。


「お前を一人にしたら、誰が最後に檻を閉めるんだ」

「…ぁ」

「いいから此処に座れ」

「そこって…ま、待って」

「?」


 桶の側で袖を濡らさないように羽織を脱げば、彩千代の足が一歩退く。
 …俺は此処に座れと言ったんだが。


「もしかして湯浴みにつき合う気じゃ…」

「? そうだが」

「!?」


 当然だろう。

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