第8章 むすんで ひらいて✔
「あの時は…驚かせて、ごめんなさい」
「いいよ。オレ達も初対面で色々失礼なことしたしな。特に前田が」
「…前田さんは…」
「なーんも変わっちゃいないさ。寧ろ鬼の力に耐え得る服は作れるのかって、まだ蛍ちゃんの服作り諦めてないくらいだし」
「そう、なの?」
「そうそう」
どうやらこの後藤という男と彩千代は反りが合うみたいだ。
疲労の残る顔はしているが、後藤の前だと饒舌な気がする。
…そう言えば煉獄や宇髄の前でもそうだったな。
甘露寺とも親密度を深めているようだし…交わすだけの言葉を彩千代は持っている。と、思う。
俺の前だと妙にぎこちない時が多いから、そんな印象は余りなかった。
「ただ…全員が、潔く蛍ちゃんを認めた訳じゃない。不安を感じてる奴も、勿論いる」
「……」
「不安にさせて悪い。けど、事実は伝えておこうと思って」
「…うん。その方が私も助かるから…」
「だからって蛍ちゃんのことを言いふらさない決まりは、隠達全員の中で定めてるのに変わりはない。そこは安心してくれていい」
「ありがとう」
「礼なんていいよ。それだけどうしても伝えたかったし…あ! オレも手伝いますんで!」
「いい、構うな。彩千代と話したかったんだろう。伝えたいことを伝えればいい」
運んだ水釜の湯を桶の中に注ぎ込む。
湯浴みの準備をしていたら弾けるようにして飛んできた後藤に、頸を横に振った。
手伝いはここまででいいと事前に伝えていた。
ここから先は不要だ。
「伝えたいことなら伝えられましたんで…」
「ならもう手助けは不要だ。夜も遅い、お前は己の隊舎へ戻れ」
「ですが…」
「なら見ていくか」
「え?」
「彩千代の湯浴みを」
「っ!?」
「ぎ、義勇さん!?」
はっきり伝えれば、後藤と彩千代から同じ動揺が伝わった。
…?
俺は真実を言ったまでだ、何故動揺する必要がある。
此処に残れば必然と目にすることになるだろう。