第33章 うつつ夢列車
(って言ってる場合じゃない)
ふるりと頭を振り被って、場違いな疑問を吹き飛ばす。
今は悠長に構えている暇はない。
乗客全員が危険な状態なのだ。
「猪突!猛進!! 伊之助様のお通りじゃァアア!!」
「伊之助! ねぇ伊之助!!」
「お!? 其処にいるのは鬼子分一号!!」
「あハイ。子分ですけど。それより伊之助、鬼を見つけたの!」
「鬼ィ!?」
「この汽車はもう安全な所がないんだ! 眠っている人達を守らないと!!」
ぶんぶんと手を振る蛍と、声を大にして告げる炭治郎に、フンスフンスと鼻息荒く登場した伊之助の目が止まる。
「この汽車全体が鬼になってる! 聞こえるか!! この汽車全体が鬼なんだ!!」
「何処から攻撃されるかわからない! 乗客は皆鬼に眠らされているの!!」
近場の車両から飛び出してきたが、幾つか車両は離れている。
ごうごうと唸るような強風の中、声を届けるように必死に炭治郎と蛍は叫んだ。
駆け寄る暇さえ惜しい。
一分一秒を争う時だ。
「やはりな…オレの読み通りだった訳だ…」
獣のような鋭い五感を持つ伊之助の耳に、二人の叫びは届いていた。
わなわなと体を震わせると、歓喜するように声を荒げる。
「オレが親分として申し分なかったという訳だ…!」
伊之助が見た夢は、巨大な列車の化け物である主(ぬし)と戦う夢だった。
現実に起きた今も、夢の延長線上のような状況に肌がぶるりと震える。
恐怖ではなく、歓喜に満ち満ちて。
「どいつもこいつも俺が助けてやるぜ!!」
二刀流の日輪刀を構えると、再び空いた屋根の穴へと飛び込む。
車両の中はつい先程とは一変していた。
肉塊のようなものが座席や壁、床や天井の至る所からむくむくと膨らみ生まれ出る。
奇妙な生き物のように膨らむそれは、寝ている乗客達の頸に巻き付いた。
ぞわりと伊之助の肌が再び震える。
敵はなんなのか、斬るべきものはなんなのか。
誰に言われずとも瞬時に体は悟っていた。