第33章 うつつ夢列車
「ッ…煉獄さん! 善逸!! 伊之助ーっ!!」
相手が魘夢だけであれば、二人でもまだよかった。
魘夢が二百人以上の人質を取ってしまったが故に、状況はがらりと変わってしまったのだ。
猶予は一切ない。
切羽詰まった炭治郎が、堪らず声を荒げて後方車両へと駆け出す。
「寝てる場合じゃない! 起きてくれ頼む!!」
「待って炭治郎! 炭治郎は一人でも多くの乗客を守って!」
「だけど禰豆子が…っ禰豆子にも眠っている人達を守ってもらわないと…!!」
「わかってる! 私が朔に指示を出すから、ひとまず一塊にまとまるのは駄目!!」
「ッ」
蛍の言う通りだった。
乗客はこの長く長く続く車両全てに乗っている。
最善はなるべく起きている者で散り散りになり、より多くの人々を守ることだ。
魘夢が列車と融合した為に、どのような攻撃を仕掛けてくるかわからない。
一網打尽にされる恐れがある為、まとまってしまうのはより危険が増す。
「その朔ってのはなんなんだ? 遠隔操作のできる影なのかっ?」
「似たようで違うかな。操作じゃなくて、意思疎通して動いてもらってる感じ」
「動いて…もらってる?」
「説明はとにかく全部後でね。それより──」
『ウォオオオォオオ!!!』
激しい車輪と強風の轟音。
そこに混じる、雄叫びのような声。
荒々しくとも、それが敵ではないことを蛍と炭治郎は知っていた。
「この声は…っ」
「伊之助だ!」
ゴン!と鈍い打撃音が続いて響く。
声は車両の中からした。
ゴン、ゴン、メキ、ゴン。
何度も打ち続けられ、拉(ひしゃ)げた音を立てているのは、すぐ傍の車両の屋根だ。
「え、まさか」
一つの予感が蛍の脳裏に走る。
それと同時に、ばきんっと屋根は打ち破られ、車両から猪頭の少年が飛び出した。
「ついて来やがれ子分共ォ!!!」
「伊之助っ!」
「わぁ…(屋根壊した。突撃で)」
明るい炭治郎の顔とは裏腹に、蛍は思わず真顔で大穴の空いた屋根を見つめた。
魘夢は列車と融合したと言っていたが、彼にこのダメージはないのだろうか。