第33章 うつつ夢列車
「この列車の全てが、俺の血であり肉であり骨となった」
「…ッ」
「うふふ、その顔…! いいねいいね、わかってきたかな?」
その為にはまず、この花札の鬼狩りを始末しなければ。
「つまり、この汽車の乗客二百人あまりが、俺の体を更に強化する為の餌。そして人質」
それと同時に、この列車内の全ての人間を一度に喰らう。
そうすれば無惨の血を貰う前に、更なる力を手に入れられるだろう。
「ねぇ、守りきれる? 君達二人だけで。この汽車の端から端までうじゃうじゃとしている人間達全てを、」
列車に乗っていた乗客は二百人以上。
蛍の予想を遥かに超える人数に、炭治郎と同様顔色が悪くなる。
最悪の状況だった。
列車と融合した魘夢。
となれば実際に喰らわなくても、既に乗客は全て魘夢の腹の内にいるようなものだ。
喰われるのは瞬く間。
「俺に"おあずけ"させられるかな?」
「く…ッ!」
にんまりと口角を上げて挑発的に笑う魘夢に、炭治郎が堪らず飛び出した。
しかしその刃が目の前の頭を斬る前に、瞬く間に列車の屋根に溶け入るように、長い触手も魘夢の頭も、しゅるりと引っ込んでしまう。
「うふふふふっ」
最後に耳にしたのは、薄ら寒い魘夢の笑い声だけだ。
「炭治郎ッ」
「どうする…っ俺一人で守るのは二両が限界だ! それ以上の安全は保障できない!」
「私の影鬼なら列車全両を包み込めば、守れるかもしれない」
「! 本当かっ?」
「ただし今の私じゃ…朔の力を借りないと」
「さく?」
「禰豆子に預けている、影鬼の一部。でも禰豆子が皆を起こすまでは傍に待機させておかないと。あの子には禰豆子と杏寿郎達を守るよう頼んであるから…っ」
確かな実力を持つ朔ノ夜だからこそ、一番守りたい者の傍に置いてきた。
魘夢が列車と融合した今、彼らにも危険が及ぶ。
となれば尚更、安易に離れさせる訳にはいかない。