第33章 うつつ夢列車
ようやく蛍からも引き出せた顔の歪みに、満足そうに魘夢が高笑いを上げる。
「頸を斬ったのにどうして死なないのか教えて欲しいよね。いいよ、俺は今気分が高揚してるから。赤ん坊でもわかる単純なことさ。うふふふ」
ぐねぐねと触手のような長い肉塊を揺らして、先に繋がる魘夢の頭もゆらゆらと揺れる。
「"それ"がもう本体ではなくなっていたからだよ」
それ、と告げる魘夢の目が、炭治郎の背後で倒れている頸無しの体を見る。
「今喋っている"これ"もそうさ。頭の形をしているだけで頭じゃない。君達がすやすやと眠っている間に、俺はこの汽車と融合した…!」
「「──ッ!?」」
二人共に息を呑む。
列車は無機物だ。
それと鬼が融合することなどできるのか。
(っ駄目だ、可能かどうかなんて考えるな! もう既に起こっていることだ。その先を考えないと…!)
鬼に人間の常識は通じない。
己の体でよくわかっているはずだと、蛍は頭を振りかぶった。
既に魘夢の体は、無限列車と一体となっている。
となるとこの足元の下にある鉄の感触も、魘夢の手足となるのか。
「うふふふふ」
驚きを隠せない二人を前に、魘夢は薄い笑みを張り付け笑い続けていた。
二人を出し抜けたからだけではない。
炭治郎が、捜していたあの"耳飾りの鬼狩り"だと把握したからだ。
炭治郎の頸を無惨に差し出せば、更にもっと沢山の血を分けて貰える。
そうすれば更に強い力が身に付く。
強さは"力"だ。
以前の魘夢では、列車と一体になることなどできなかった。
それを可能にしたのは、無惨に貰った血の効果に他ならない。
(そしてもっと強くなれたら、上弦の鬼に入れ替わりの血戦(けっせん)を申し込めるぞ)
鬼には階級がある。
下っ端の鬼にはそんなもの存在しないが、上弦・下弦の鬼には瞳に刻まれた階級が全てだった。
順位を決めるのは無惨ではない。鬼自身だ。
力が全て、強さが全ての世界である。
力を身に付け、上位の鬼に階級入れ替わりの血戦を申し込み、そこで打ち勝てばその者の階級を奪うことができるのだ。